第8話 閻魔大王(えんまだいおう)と小栗
肉体と分離した小栗の魂は、閻魔大王(えんまだいおう)の前に到着しました。
大王は魂の行き先を決める偉い方です。
「おまえは極楽行きだ」大王は小栗にそういいました。
「私は極楽に行きたくありません。私は現世にやり残したことがあります。武士でありながら毒殺された無念を晴らしたいのです。それさえ成就すれば地獄に落ちてもかまいません。」と小栗はいいました。
さすがの大王も小栗の処遇に困ってしまいました。そこで大王とジャンケンして、小栗が負ければ極楽へ勝てば現世へもどることにしました。ふたりの勝負は、百回もあいこが続き決着がつきませんでした。
困りはてて大王は、「どうしてそこまでして現世にもどりたいのだ」とたずねました。
「私は本当は、現世に残した愛しの照手姫を守りたいのです」と訴えました。
それを聞いて大王は小栗に試練を与えることにしました。
「わかった。おまえを醜態な容貎をした餓鬼阿弥(がきあみ)の姿で現世にもどしてやる。みんなの力を借りて、四百四十四日以内に熊野(くまの)の湯へたどりつけばもとにもどることができるだろう。しかし一日でもおくれたら地獄行きだ。」こうして小栗は現世へもどることになったのです。