第9話 照手、その後
「お母様もどうぞご無事でありますようにそして私は、生まれ変わったら小栗様と結ばれますように…」
そう結神社でお願いするのは照手姫でした。
彼女は相模川に落ち、誰もが死んだと思っていました。
ところが落水後、乳母夫婦に助けられていたのです。そして将監の追手を逃れるために各地を転々としました。
今では追っ手のかからないぎふ岐阜にたどりついていました。そこで照手は常陸(ひたち)小萩と名をかえ、旅篭(はたご)の萬屋で水しめというつらい仕事をしていました。
常陸は亡き小栗の治めていた国の名で、今でも照手は小栗を慕っていたのです。
その時です。一心にお祈りをしている照手の耳元に観音様の声が響きました。
「あなたのやさしさをこの世の弱い者へ向けなさい」「はっ」としてまわりを見わたしましたが誰もいませんでした。しかし、その声は深く照手の心に残ったのです。